映画の観方にも多大な影響を及ぼすであろう災厄に見舞われた3月、今の平穏な暮らしは偶然の産物でしかないという事に多くの人が気付かされた事でしょう。映画の中のカタストロフや凶悪事件は自分とは切り離された世界の話ではないのだと。そしてそう思わせる作品が多かった気がします。いや、3.11にそういう視点のスイッチが強制オンにされたんですね。それ以前にはもう戻れない。
という事で今回は『冷たい熱帯魚』『悪魔を見た』という大量の血しぶきと肉片が飛び交う2本のエクストリーム映画をピックアップ。
『冷たい熱帯魚』は為す術もなく凶悪犯罪に巻き込まれていくお話。村田という狂人の卑近さや、まさかそんな事がある訳ないと現実から逃避する甘さ、自分にとっての正義が共犯関係を肯定させてしてしまう弱さ。とても他人事とは思えません。まさにすぐそこにある恐怖。そしてやりきれないけど納得できるラスト。
『悪魔を見た』は物語のメインである復讐劇よりも、人間はこれ程の怪物になれてしまうのかという点に興味を持ちました。彼らは悪魔として生まれてきたのではなく、元々自分の中に持っているダークサイドがたまたま表に出てしまっただけ。善悪を併せ持つ人間という存在の不思議さと、そのどちらに転ぶかはほんの些細な事で変わってしまうという事がうまく描かれた作品だと思いました。
バブル期を経験した自分たちの世代には、今の自分の地位や生活は自分の努力の結果であると自惚れている人が多い気がします。リーマンショックをきっかけにした派遣労働者をめぐる動きの中で、弱者に向けられた「自業自得だろ」という言葉はその最たるものだと思います。自分が同じ境遇に置かれる可能性を想像できないんですね。
そんな安定は幻想でしかない事を思い知らされたのが今回の震災でしょう。いまこうして生きていられるのは、たまたま豊かで紛争のない国に生まれただけ。幸運にも被災地から離れていただけ。そしてそれは突然無かったものにされ得る。肝に銘じて生きて行きたいものです。
その他の作品はツイートより。
ベント・ハーメル監督『キッチン・ストーリー』レンタルDVDにて。いわゆる北欧ゆるふわ不思議映画。登場人物はくたびれたおっさんだけなのに、こんなにもキュートな作品にしてしまう監督はきっと天才。この人の作品は全部観る事に決めた。 http://coco.to/1628

キッチン・ストーリー [DVD]
ジャン=リュック・ゴダール『勝手にしやがれ』TV録画にて。この頃はゲリラ的撮影が普通だったのかな、通行人が全員カメラや役者をガン見してて面白い。しかしこのラストシーンは何度観ても印象的ですな。疾走エンディングの元祖?ジーン・セバーグもカワユス。

勝手にしやがれ 【ベスト・ライブラリー 1500円:隠れた名作特集】 [DVD]
『Ricky リッキー』サロンシネマにて。自分が知ってるフランソワ・オゾン作品とはかなり毛色の違ったファンタジーもの。全編を覆う不安定感はオゾン節なんだけど、リッキーの可愛さと微グロのせいで別物になってる。CGを使ってないのも良い。 http://coco.to/1628
『死刑台のエレベーター』サロンシネマにて。恥ずかしながらの初観。ちょっとダルい所はあるけど、57年当時これが出てきた時の衝撃は頷ける。エレベータ内のシーンがもっと欲しかったな。あと、マイルスの即興サントラは確かに凄い。

死刑台のエレベーター [DVD]
『悪魔を見た』109シネマズ広島にて。まるで怪獣映画を観てるようだった。チェ・ミンシクの怪物ぶりが過剰すぎて同じ人間として見れないというか。もう少し日常に潜む恐怖感、背筋が凍る感が欲しかったかな。でも演技は凄いよ。 http://coco.to/1628
『酔いどれ詩人になるまえに』レンタルDVDにて。ブコウスキーの自伝的小説が原作。ずぶずぶに自堕落な主人公を演じるマット・ディロンが超はまり役。アルコールで空ろになりながらも冴えた言葉が湧き出すアンビバレンスがブコウスキーの魅力なのだろう。 http://coco.to/1628

酔いどれ詩人になるまえに [DVD]
『冷たい熱帯魚』サロンシネマにて。ここで描かれる関係性はカルト集団のそれと同じものなのかな。でんでん演じる村田は明らかに狂人だが、同時に魅力的でそれを有効に使う術を知っている。『悪魔を見た』と比べると、こちらの方が身近に感じられる分怖い。 http://coco.to/1628
『ウッドストックがやってくる』サロンシネマにて。とても面白かった。傾きかけた実家の家業という日常と、ウッドストックという超非日常の板挟みで大混乱しつつもしっかり成長する様がうまく描かれてる。会場が宇宙の中心のなるイメージは感動的だった。 http://coco.to/1628
『キック・アス』レンタルDVDにて再観賞。ニコラス・ケイジが大好きな自分を再発見。ネットショップで30万ドルのガトリングガンを見たときの喜び方が最高だ。ボンクラ万歳!

キック・アス DVD
『トゥルー・グリット』シネツイン新天地にて。とても観やすい娯楽作に仕上がってるけど、コーエン兄弟作品的な喜びも。今回も距離感が生み出すマジックがいくつか有り。特に数十m先の藪から姿を表すアレのシーンは絶品。そしてデュードは常にデュード。 http://coco.to/1628
『エリックを探して』サロンシネマにて。久々に観るケン・ローチ作品だけど、彼にしてはちょっと異色かな。かなりガッツリとしたカタルシスがある。少々安っぽい感じもあるけど、たまにはこういうのもいいかな。でも次はいつものケン・ローチ節を期待。 http://coco.to/1628