ハビエル・バルデムを観るための映画「ノーカントリー」


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ノーカントリー / No Country for Old Men (2007年, アメリカ)
監督・脚本・制作:ジョエル・コーエン, イーサン・コーエン
出演:トミー・リー・ジョーンズ, ハビエル・バルデム, ジョシュ・ブローリン, ウッディ・ハレルソン, 他
公式サイト:http://www.nocountry.jp/

観終わってみると、なぜこんなにも殺伐とした作品がアカデミー作品賞に輝いたのかが疑問に思えてしまいます。他の候補作が暗い作品ばかりだったからというのもあるのでしょうが、ここまで身も蓋もない作品が受賞するなんて、アカデミー会員の嗜好も変わってきたものです。

そして、助演男優賞を獲ったハビエル・バルデムには大いに納得。特に序盤で保安官助手を絞め殺すシーン、この世の物とは思えない形相は映画史に残る名シーンであります。そこだけでも観る価値あり。

ベトナム帰還兵のモス(ジョシュ・ブローリン)はある日、狩の最中に多数の死体を発見する。麻薬取引のいざこざの末の銃撃戦によるもので、モスは現場に残された200万ドルを持ち去るが身元が割れ逃亡を余儀なくされる。彼を追うシガー(ハビエル・バルデム)は屠畜に使う高圧銃と巨大なサイレンサーの付いたショットガンで、出会う者を次々と殺しながらモスを追う。モスの地元のベル保安官(トミー・リー・ジョーンズ)は、保安官助手を殺したシガーを逮捕すべく、またモスを救うべく彼らを追う。この逃走劇を待ち受けるものは何か?というお話。

まずタイトルの”No Country for Old Men”ですが、これは古き良き時代を生きてきた年寄りには生きにくい時代になった事を意味するもので、語り部であるベル保安官の置かれた立場を表しています。昔ながらの規範を軸足に生きる者の代表としての存在ですね。そして、そんな年寄りを生きにくくしている存在として描かれるのがシガーという純粋悪です。彼が行う殺戮には何の理由もなく、犠牲者はただそこに居合わせてしまったという事だけで「たまたま」命を絶たれてしまうのです。

このシガーの残虐性は、現代社会の無慈悲さを具現化したものですね。青信号を渡っていた子供が突然車にはねられ即死してしまったり、通勤電車が脱線し大量の死傷者を出してしまう容赦なく残酷な現実。彼らの不幸には何の必然性もなく「たまたま」犠牲になってしまったにすぎません。「何故こんないい子が…」という問いに答えられる人はいないのです。今生きている我々も「たまたま」死なずに済んでいるだけなのでしょう。そんな世の中に押しつぶされながら生きるベル保安官の諦念混じりのため息は、限りなく深い。

そんな身も蓋もないテーマなのですが、この映画の見所はなんと言ってもシガーを演じるハビエル・バルデムです。これまで、このスペイン人俳優を意識したことはなかったのですが、しばらくは彼の悪夢にうなされてしまいそうに強烈な演技です。中でも冒頭に書いたシーンは本当にヤバ過ぎです。あの顔は地上波では放送できないでしょう。子供が見たら絶対にトラウマになってしまう。そんな超越した存在を演じるバルデムのための映画といっても過言ではないでしょう。

そして、コーエン兄弟が描くサスペンス・スリラーはやはり絶品であります。「ブラッド・シンプル」で高濃度の脂汗を大量にしたたらせ、「ミラーズ・クロッシング」の激し過ぎる銃撃戦の流れ弾を浴び、「ファーゴ」の雪原に降る血の雨で脳が沸いてしまった人は、本作でも期待を裏切られる事はありません。絶対に観ましょう。逆に、アクションドラマ的なドラマチックな展開を期待する人は観ない方がいい。

オスカーは「たまたま」獲ってしまいましたが、コーエン兄弟の根っこは全く変わっていませんのでファンの方はご安心ください。という事で、トレーラーをどうぞ。


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